自動車引き上げへはどう対応すべき?(自己破産・個人再生)
自動車のローンを残したまま債務整理(自己破産・個人再生手続き)を行う場合、販売会社や債権会社から引き上げるよう求められることがあります。
というのも、自動車のローンの一つの方式として「所有権留保」というものがあります。ローンを支払っている間は、対象の自動車の所有権はローン会社等にあり、ローンを払い終えて初めて自分の名義に変更されるというものです。
所有権留保となっている場合、個人再生や自己破産手続きをするとローンの残りを支払えなくなります。よって、ローンの規約によって車が引き上げられてしますのです。
マイナスのイメージが強い自動車引き上げですが、応じることで「同時廃止事件」という簡易な方法を用いて破産手続きを行える可能性があります。また、き損による財産価値消失の危険を回避したり、駐車場代その他維持にかかる費用を節約できるというメリットもあります。
その一方で、事案によっては、ローン会社が対抗要件(所有権を主張するための要件)を備えていないと判断されることもあり、安易に引き上げに応じると「財産散逸行為」とみなされ、あとになって裁判所からその責任を問われる可能性もあります。
よって、自動車引き上げへの対応は、慎重な判断が必要となります。できれば専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることが望ましいでしょう。
引き上げの適否
1 別除権
自動車ローンの債権が「別除権」にあたれば、引き上げが認められます。
別除権について、簡単に説明します。
お金を貸す立場である債権者は、債務者が自己破産や個人再生を申し立てて、貸したお金が返ってこなくなることを恐れます。
よって、債務者が万が一お金を返せなくなったときに備えて、債権者が取っている担保を「別除権」と呼ぶことがあります。
特定の財産について、破産手続きによらず、優先的に弁済を受けられるという権利なのです。
以下、該当する条文です。
破産法2条9項 この法律において「別除権」とは、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である財産について第65条第1項の規定により行使することができる権利を言う。
破産法65条1項 別除権は、破産手続きによらないで、行使することができる。
民事再生法53条
1 再生手続き開始のときにおいて再生足武者の財産につき存ずる担保権(特別の先取特権、質権、抵当権又は商法若しくは会社法の規定による留置権をいう。第三項において同じ。)を有する者は、その目的である財産について、別除権を有する。
2 別除権は再生手続によらないで、行使することができる。
ローン会社等、自動車の引き上げするためには、債権者に留保された所有権について、ローン会社等.に対抗要件(第三者に物や権利の取得等を主張するために必要な法律要件)が備えられているか否かが問題なのです。
2普通自動車の引き上げ
普通自動車における所有権の対抗要件とは、登録制度上の「登録」です。
よって、引き渡し請求者(引き上げるよう求めたローン会社等)が所有権を留保していて、登録名義も引き渡し請求者となっている場合には自動車の引き上げが認められます。
しかし、引き渡し請求者と登録名義が異なる場合は、引き上げに応じるべきかどうかが問題となります。
この点については、過去の裁判例を見ると、契約方式などによって判断されるようです。
以下、契約方式別の事例を紹介します。
1 立替払方式において、所有権留保が合意されているケース
自動車の購入者から委託されて販売会社に売買代金の立替払をした者が、購入者及び販売会社との間で、販売会社に留保されている自動車の所有権につき、これが、上記立替払により自己に移転し、購入者が立替金及び手数料の支払債務を完済するまで留保される旨の合意をしていた場合に、購入者に係る再生手続が開始した時点で上記自動車につき上記立替払をした者を所有者とする登録がされていない限り、販売会社を所有者とする登録がされていても、上記立替払をした者が上記の合意に基づき留保した所有権を別除権として行使することはゆるされない。
最判平成22年6月4日 金融法務事情1353号31頁
この判例では、所有権者と登録名義人が同じでないと、引き渡し請求者が対抗要件を備えたとは言えない、と判断されました。
つまり、たとえ、所有権がローン会社に留保されても、登録もローン会社名義になっていなければ、別除権は認められません。
よって、車の引き上げも認められないのです。
2 割賦販売方式における保証債務の履行による法定代位が行われたケース
自動車の購入者と販売会社との間で当該自動車の所有権が売買代金債権を担保するため販売会社に留保される旨の合意がされ、売買代金債務の保証人が販売会社に対し保証債務の履行として売買代金残額を支払った後、購入者の破産手続きが開始した場合において、その開始の時点で当該自動車につき販売会社を所有者とする登録がされているときは、保証人は、上記合意に基づき留保された所有権を別除権として行使することができる。
最判平成29年12月9日 金融法務事情1553号36頁
この判例では、
①債権会社が保証債務の履行として販売会社に代金を支払った場合、債権会社は法定代位により留保所有権を取得すること(民法500条 501条)
②販売会社を所有者とする登録がされている以上、破産債権者にとっても所有権が留保されていると予測しうる
の2点から、信販会社が対抗要件を有する必要はないと判断しています。
つまり、販売会社さえ対抗要件を有していれば、信販会社による自動車の引き上げが認められるのです。
3 約款に立替払の方式により法定代位が明示されているケース
平成29年判決の説示が当てはまると考えられます。
(3)軽自動車
軽自動車における所有権の対抗要件は、「引き渡し」とされています。
この引き渡しには、占有改定(民法183条 占有者がそれを手元に置いたまま占有を他者に移すこと)も含まれます。
そのため、引渡請求者が所有権を留保し、かつ占有改定の合意が認められれば、自動車の引き上げが認められます。
参考として、占有改定の有無が争点となった裁判例には、以下のようなものがあります。
占有改定の合意があったか否かについても、単に契約書の条項にその旨の明示の規定が定められていたか否かではなく、当該契約書の条項全体及び当該契約を行った当時の状況等を当事者の達成しようとする目的に照らして、総合的に考察して判断すべきものというべきである。(中略)
本件契約条項では、(ア)契約の効力発生と同時に本件自動車の所有権はファイナンス会社である被告に移転すること、
(イ)買主(破産会社)は、被告が本件自動車の所有権を留保している間は、本件自動車の使用・保管につき、善管注意義務を負い、被告の承諾ない限り、転売、貸与、入質等の担保供与、改造、毀損等が一切禁止されること
(ウ)買主(破産会社)は割賦払金の支払を怠っているときは、被告からの催告がなくても、直ちに本件自動車の保管場所を明らかにするとともに本件自動車を被告に引き渡すものとされていること等が定められており、買主(破産会社)は当該各条項を了解して、本件自動車を割賦購入したもんと認められることに照らせば、買主(破産会社)の占有は、本件契約の効力発生時点において当然に他主占有(所有する意思をもたずに行う占有)となる上、所有権者である被告のために善管注意義務をもって本件自動車を専有し、転売や貸与、改造等も禁止されるなど、明らかに占有改定による占有の発生を基礎付ける外形的事実が存在しているというべきである。
したがって、本件契約後の買主(破産会社)による占有は占有改定による占有であると認められる。
名古屋地判平成27年2月17日 金融法務事情2028号89頁
別除権協定
別除権協定とは、民事再生手続きにおいて、ローン会社に対して「自動車を売却したときの売値を支払うから、担保権を行使しないでほしい」と交渉、認めてもらう協定です。
再生手続きを始めるにあたって、再生債務者の財産について担保権を持つ者は、別除権を有していて、再生手続外で行使ができます。
別除権が行使されると、再生債務者は、担保目的物である財産を失います。
この財産が再生債務者が事業を続けるにあたって必要不可欠なものである場合、担保権が実行されると、再生に大きな影響が出る可能性があるのです。
そこで、再生債務者が取ることができる手段として、別除権者との間に「別除権の取り扱い」に関する合意を得ることです。
具体的には、例えば車が事業存続のために必要なのであれば、その旨を別除権者に説明し、車の評価額を分割して弁済し、別除権の行使を猶予してもらう、といったケースが考えられます
ただし、別除権協定が認められるには、以下の条件を満たす必要があります。
ア 債権者との別除権協定の合意
返済額、返済期間、利息の有無を定め、担保権を実行しない旨の合意を得なくてはありません。
※注意点
原則、担保物権の時価評価額を返済金額とし、残りの金額は再生債権とします。ただし、債権者が同意しない可能性も十分あるため、柔軟に対応しなくてはなりません。
イ 裁判所の許可
共益債権(事業を継続するために必要な費用)である旨を説明し、裁判所から許可を得る必要があります。
ウ小規模個人再生での否決の回避
否決となる可能性があるのなら、債権者に事前に説明をしておいたほうがよいでしょう。
債務整理における自動車の取り扱いに不安がある方はご相談ください
自己破産・個人再生手続きにおける自動車の引き上げに関しては、様々な状況や契約内容を考慮しなくてはなりません(購入時の契約内容や車検証の内容等)。
また、約款にはこれまでに裁判例の無いような新しい形式のものもございます。引き上げに応じるかどうかには、慎重な判断が求められます。
ご自身での対応が難しい、最適な判断ができない、と感じた方は法律の専門家である弁護士にご相談することをおすすめします。
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